大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)21号 判決

一 前掲請求の原因のうち、本願発明につき、出願から審決の成立にいたる特許庁における手続、発明の要旨及び審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、右審決に原告主張の取消事由があるか否かについて検討する。

(一) 構成について

引用例に右審決認定の技術内容が記載されていることは原告の認めるところであり、したがつて、第一発明と引用例の方法とは、ともに被処理ガスがあわ層を通過することによつてガス中から特定成分等を分離する技術に関するものであるが、なおよく両者を対比すると、構成上、少くとも次の二点、すなわち、第一発明が液体と最初のガス(被処理ガス)以外のガスとからあわを形成するのに対し、引用例の方法が被処理ガスによつてあわを形成する点及び第一発明があわを支える開孔部材に格別の限定をしないのに対し、引用例の方法がガス通路を遮断する固定水平金網の「空隙率を三〇ないし五〇%」に限定をする点において相違することが明らかである。

被告は、第一発明が開孔部材について引用例の方法のように空隙率を限定しないのは引用例の固定水平金網のように「あわ発生機能」がないから当然であり、空隙により「あわ保持機能」を有する点で引用例の方法と同等であり、その構成についても格別差異がない旨主張するが、前記認定を覆して空隙率の限定が引用例にあつて、第一発明にないことを否定するに足りる資料はなく、両者が空隙による共通の機能を有し、その構成に差異がないからとて、空隙率の限定の有無について過少評価すべきいわれはない。

(二) 作用効果について

次に、成立に争いのない甲第三号証(引用例)によると、引用例においては、被処理ガスによつてあわを形成する方式が取られるため、固定水平金網の空隙率が大きくなると、吸収液の大部分が液状のまま金網面から漏れて分離能率の低下を来たすので、その空隙率を五〇%以下に押える必要があり、また、被処理ガスの運動エネルギーの一部があわ形成のため消費されて、あわ形成の際の圧力低下が避けられないことが認められるところ、成立に争いのない甲第二号証の一(本願発明特許願)によると、これに対し、第一発明においては、被処理ガス以外のガスを用い、開孔部材以外の箇所であわを形成し、これを処理帯に充填し、開孔部材をもつてあわを保持させる方式が取られるため、開孔部材の空隙率を格別限定する必要がなく、引用例よりはるかに大きくして被処理ガスの圧力低下を小さくすることができ、また、引用例のような被処理ガスの運動エネルギーの消費もないから、煙突ガスのような、流れに対する抵抗を許さないガスをも処理することができるという効果があること、したがつて、以上の点は、引用例の方法にない顕著な作用効果であるとともに、被処理ガスの圧力損失をできるだけ小さくするという本願発明の目的にも適うものであることが認められる。そして、上記のところから自明のように、第一発明のさような作用効果は空隙率の限定がないという構成に基づくものであるといつて妨げない。

(三) してみると、第一発明は、上記の構成及び作用効果の点で既に、引用例から容易に推考しうるものということができないから、右審決は、第一発明及びこれと実質的に同一の構成であるとみるべき第二発明をもつて、引用例から容易に発明をすることができ、これにつき特許が受けられないと判断した誤りがあり、その故に違法であつて、取消を免れない。

三 よつて、その取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。

原告訴訟代理人は本訴請求の原因として次のとおり述べた。

(審決の成立―特許庁における手続)

一 原告は、名称を「ガスからダスト粒子を分離する方法及びこの方法を実施するための装置」とする発明につき、一九六七年(昭和四二年)一一月一六日スエーデン国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和四三年一一月一五日特許出願をしたが、昭和四七年一月二〇日拒絶査定を受けたので、同年七月二六日これに対する審判を請求(同年審判第五〇三〇号事件)したところ、特許庁は、昭和四八年七月二五日審判の請求は成り立たない旨、主文第一項掲記の審決をし、その謄本は同年一〇月二七日原告に送達された。(なお、出訴期間につき三か月を附加された。)

(発明の要旨)

二 本願発明の要旨は次のとおりである。

(1) 最初のガスの入口及び出口を有する処理帯中で、前記最初のガスから粒子を分離する方法において、液体と、前記最初のガス以外のガスとからあわを形成し、前記処理帯をあわで充填させ、そして、前記あわをあわ層として前記処理帯中に前記最初のガス路に設けられた開孔部材によつて支え、これによつて、前記最初のガスをあわ層を通して通過させて、前記最初のガスから粒子を分離することを特徴とする方法。

(2) 最初のガスから粒子を分離するための装置において、前記最初のガスを流通させるための処理室と、液体及び前記最初のガス以外のガス源を含むあわ形成装置と、そして、あわ層を前記室中に支持させるための装置とから成り、前記室はあわ入口を有し、、前記あわ形成装置は、前記室中にあわ層を形成するために、あわ入口を通じて室を充填させるように配置され、そして、前記あわ支持装置は、室を流通する前記最初のガス路中に配置されることを特徴とする装置。

(別紙第一図面参照。以下、右(1)、(2)の発明をそれぞれ「第一発明」、「第二発明」という。)

(審決の理由)

三 そして、右審決は、本願発明の要旨を前項のとおり認定したうえ、次のような理由を示している。

特公昭三三―四七二二号公報(以下、「引用例」という。)には、「直立円筒内部のガス通路を金属板縁を持つ空隙率三〇ないし五〇%の固定水平金網によつて遮断し、金網の上方に吸収液導入管、金属板縁の一端に吸収液排出管を設けた気泡式吸収装置において、直立円筒内を下方より上方に向つて被処理ガスを通過せしめるとともに、一方吸収液を導入管より上段金網の上面に接触させながら供給するか、又はスプレイによつて供給すると、同時に網面で吸収液が気泡化されて泡の上に泡を生じ、次第に増加して内筒内から溢流するようになり、被処理ガス中のある特定成分又はガス中に懸垂する微細粉塵を分離すること」(別紙第二図面参照)が記載されている。

したがつて、第一発明は、液体と最初のガス以外のガスとからあわを形成する点において、引用例の方法が被処理ガスによつてあわを形成するのと相違するが、その他の構成において、引用例の方法と一致する。そして、液体と気体とを混入させてあわを発生させる装置は消火器などによつて本願出願前から周知であるので、第一発明は引用例の吸収液導入管を右周知技術で置換したものに相当するが、両者ともあわを発生させて利用するものである以上、その置換に格別の技術的困難性は認められず、その作用効果の差異も程度の問題に過ぎないから、第一発明は引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、第二発明は、第一発明の表現形式を方法の発明から装置の発明に変えたに過ぎず、その構成部分についてもカテゴリーが異るため表現上差異が生じたのみであつて、両者は実質的に同一である。

よつて、本願発明は特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。

(審決の取消事由)

四 しかし、右審決は、以下に指摘するように第一発明と引用例の方法との相違を看過し、その結果、本願発明の進歩性を否定した点において、違法であるから、取り消されるべきである。なお、引用例に右審決認定の技術内容が記載されていることは争わない。

(一) 構成上の差異について

引用例にはガス通路を遮断する固定水平金網について「空隙率三〇ないし五〇%」の限定があるのに対し、第一発明の「開孔部材」にはさような限定がない点で、両者は構成上相違するが、右審決はこれを看過した。なお、右限定の有無は次のような理由に基づくものである。すなわち、引用例の方法においては、吸収液と被処理ガスとであわを形成する構成であるため、吸収液が液状のまま固定水平金網に供給されるが、その金網の空隙の大きさが一定の限度を超えると、吸収液の大部分があわ化する前に網面から漏れて、分離の能率が著しく低下し、またはこれが不可能となるので、金網の空隙を相当小さくする必要が生じ、これを小さくし過ぎると被処理ガスの圧力が低下するので、その低下を少くするため、その空隙率を相当高く構成する必要があり、これに対し、第一発明においては、液体と最初のガス(すなわち、被処理ガス)以外のガスとであわを形成し、そのあわを処理帯中に充填して開孔部材で支える構成であるため、引用例のような空隙率限定の必要がない。

(二) 作用効果上の差異について

第一発明は引用例の方法との間に上記構成上の差異による次のような作用効果上の差異があるが、右審決はこれを看過した。

1 圧力低下(圧力損失)

引用例においては、金網の空隙率が限定されているため、第一発明に比して被処理ガスの圧力低下が大きく、また、被処理ガスによつてあわを形成するため、被処理ガスの運動エネルギーが消費され、その分だけ圧力の損失が生じるのに対し、第一発明においてはあわ形成に当り、被処理ガスの圧力低下、損失がない。

2 被処理ガスの流速

引用例の方法においては、被処理ガスによつてあわを形成するのに、その流速を毎秒二ないし一〇メートルの範囲内に限定しているが、ときには右範囲に達しない流速を増大させるためフアン等の設備が必要となる。これに対し、第一発明においては、あわを形成してダスト粒子を分離するのに、さような必要はなく、あわの厚さを制御すれば足りる。

3 あわの安定性

引用例の方法においては、あわが被処理ガスによつて形成されるため、不安定であり、したがつて吸収液の消費が極めて多い。これに対し、第一発明においては、所望の厚さの安定したあわ層が形成され、これに用いられる液体の消費も少い。

4 分離操作の困難

引用例の方法においては、あわが被処理ガスによつて形成されるため、その厚さを制御するのが困難であり、したがつて被処理ガスの範囲が限られる。これに対し、第一発明においては、あわ層の厚さを被処理ガスに含まれるダスト粒子の大きさ、量等に応じて制御することが容易であつて、被処理ガスの範囲が極めて広い。

5 ガスの流通方向

引用例の方法においては、あわを形成するのに吸収液を水平金網に供給するため、被処理ガスの通過する円筒を直立させておく必要があり、したがつて被処理ガスが水平の通路を流通する場合には吸収装置、配管等が複雑になる。これに対し、第一発明においては、被処理ガスにすでに形成されたあわ層を通過させるため、いかなる場合でも装置を水平状態で使用することができる。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

第一図面

<省略>

第二図面

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!